労働と社会と闘争と教育などについて

俳優の配信を聞いて思い出して公開するストックではない気もする…。

 

中小企業が賃上げに踏み切れないのは仕事を回してくれる大企業が、下請けに低価格で製品を作らせるからだと工場の社長が、匿名で語る映像をみた。その通りである。弊社でも、専門でもなければ重要度の高い内容を作業内容に紛れ込ませてくるグローバル企業があり、それに対しておかしいと言うことのできない請け方しかしなかった人間がいる。安定した需要があるため受け続けている仕事も、間違いなく現場の疲弊を招いている。わたしの賃金が低いのは、目指した業界が末端にあるからだが、それでもそこに自分はそれなりに理想を抱いていたわけだし、やはり悲しい気持ちにはなる。そして、それを改善しようという優秀な…経営者はここにはいないんだろうなあと思ってしまう。自己責任と言われたら、まあそうでしょうけどうるせーなあと思う。20歳そこらの大学生が希望を持って、様々なリスクを鑑みて、当時最大の注意を払って行った選択に対してそんなことを言う人間はろくでもないなあと思うからだ。

会社や業界単位で賃上げや環境改善を求めて動けるのかと考えたとき、この業界全体の偏差値の低さ(悪口ではない)やそもそもの産業構造、世間一般の考え(自分含め、みんな通販は送料無料がいいでしょう)を鑑みればそんなことはまずできない。「エッセンシャルワーカー」という体のいい言葉で括られた時期もあったけれど、だからって何が変わったみたいなことはなかったと記憶する。変わったのは感染者の出勤停止期間が短縮されたくらいだ。笑えない。そもそも、必要なかった仕事(家庭内で主に女性が無賃金で行うべきとされていた役割については一考するべきだろう)であり、革命であり、人々が利便性(と誰かの負う苦役)を追求した結果生まれた困難を抱えているのはわれわれのような職業の人間である。エッセンシャルワーカーという語が用いられなくなっても、インフラとして存在しなくてはならない職業は多く存在する。

疲弊した現場からは声も上がらない。もういっそ全てを止めて、自分たちの仕事の重大さを世間に示すべきなのではないかと思う。想像してみてほしい。保育園や託児所で子どもを預かることができないため、多くの子どもを抱える家庭は保育士の重要性について、なぜそのストが起きたのか考えるきっかけになる。メディアで取り上げられれば「我が国の経済活動を停滞させないため」、国が保育士の待遇改善に向き合う理由の一端になるかもしれない。わたしは日本政府について、個人や集団の不利益について動くというよりはカッコ書きしたようなお国のための大義名分によってしか動かないだろうという偏見を持っている。コンビニに朝6時の納品がないため、消費期限が過ぎた商品しか用意できない。工場に届くはずの部品が届かないから操業ができない。1週間もすれば老若男女問わず低賃金で行われてきた業の、重大さとその抱える問題を否が応でも実感できるのではないだろうか。

何かを変えるには痛みがつきものだという。それを各業界の一部で起こすストライキで引き受けられるならそうしたいと常に思う。労働人口が減っていくことが間違いない中で、われわれがこれから背負う苦役に比べたら安いものであろう。1週間コンビニの店頭に物が並ばないくらいで、人間は死なない。わたしはそう思う。その間に暴動が起きたり、スーパーで乱闘があったりするかもしれないが、それは単に抑え込まれてきたひずみが表面に現れただけで、元々わたしたちが抱えていた問題である。日本は平和な国だと、内戦など今後も起きないだろうと、にこやかに語ることの想像力のなさ。多くの問題も、格差も、存在していて巧妙に隠蔽されている。それが暴力的に発露しないのは、わたしたちが暴力の振るい方を知らないからだし、知っている世代がもう若くはないからであろう。そして、言葉として発されないというのもまた、そうやって「鍛えられて」きたからであろう。従順に、学級で浮かずに過ごし多数派になることのみを是とする教育を行ってきたのは為政者だ。牙を抜かれたというのは正しくない。牙を持つ前に成型される。

わたしはこの国が変化を望むならば教育から変えなくてはならないと常々思っているけれども、教育でさえもちろんわたしたちの手中にはなく、絶望的だと感じられる。若い世代のリーダーとして、表彰されている人間だっていわゆるエリート家庭から排出された人間だろう。わたしは下層に近い中流家庭の出身だから、どうしても文化・教育資本に恵まれた人間が分断を融和に、社会の変化に寄与するには限度があると考えてしまう。そして、その狭量さにいつもあきれる。もう自分がその俎上に乗れることもないのに劣等感は常に付きまとう。

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続きませんが、ちょうど1月の終わりにこれを書いていたようで、その後偶然よい作品と俳優と出会えたのでそれを思って公開しました。