舞台 キノの旅II-The Beautiful World- #キノステ 雑感

招待していただいて観劇しました!昨年から地味に友人が増えているのが感慨深い……。

 

キノステ全般について

前作から評判がよかったので気になっていた。観られてうれしかったです!ありがとうございました。

キノは電撃文庫といえばというタイトルで、昔から知っていたのに読んだことはなく今回ほんとに初めて触れた作品だった。前回公演の映像配信をしてくれていたので、それを1本観たことで人間がバイク(モトラド)を?!という衝撃を演劇手法への感心に転じさせてくれた。わたしが観たのは千秋楽で、エルメス役の辻さんが体調不良→映像などでの演出に変更となっていたのが切なく…悔しかった!3作目があるならば!と思います。短編集らしいので原作を読んだ状態で観たいと思った。原作が好きなひとにもきっと向き不向きはあるだろうけど、漫画が流行ってアニメもやってるし一発当てたろ的に(言い方が悪い)上演される流行りの原作ものとはきっと全然作られ方が違うと思う。なので安心して観られるんではないかと思う。流行りの元気めな原作ものだって、作る側は真剣に仕事をしているのは知っているんだけど、自分のテンションと合わなくて疲れるみたいなこともある。自分たちの暮らしている世界ともしかしたらどこか地続きで起きていることのような、だから過度にドラマチックな展開でもないし勧善懲悪スカッとジャパンみたいな展開でもない。そういうのが今の自分にはちょうどよくて楽しく観られた。後味が悪いお話と言ってしまえばそうなのかもしれない。でも全てが円満に片付くなんてことは基本的に生きていて存在しないので、そういうお話のがわたしは好きなのかも。

各短編の始まりに投影でタイトルが出ていて、そこに付いた英訳のことを考えるのが好きだった。ちゃんとその1つのお話が終わってからまた出てくれるからなるほどと思える。好き…だったな。保護の国-meritocracy/祝福のつもり-How much do I pay for?とか、特に"祝福のつもり"は他のお話よりも最初に読んでもどういう意味か分からなくて、最後に出されたとき改めて読んで唸った。これはたぶん原作側のおもしろいところなんだろうけど、それをきちんと舞台演出でも反映しているというのがすてきだよなと思います。

音楽も映像も衣装もお芝居もセットもよかった♪提示される情報の全てに違和感がないというのは実はすごくきっと難しいことで、それが地味というか、観客に身近に感じられる・想像できる・元々情報として持っている(今回は原作)ものであればあるほど難易度が高くなるはず。派手なファンタジーではないからこそ、会話と感情と世界の質感の描写がきっと丁寧ではないと粗が目立つんだろうなとか考えた。キノステはこれが丁寧だったんだと思う。

冒頭キノ役の櫻井さんが踊るのを見て踊ってるな!と思った。たぶん最後に舞台作品でみたのがもう…去年?のスイプのため……そっちでも踊ってたから…印象に残ってたのかもしれない。キノのイメージは文庫表紙のスッとした表情なので、笑ったりエルメスと会話する様子にけっこう驚いた。そしてキノといえば(?)デカいライフルに耳付き帽のイメージがなぜかあって(きっとどこかで見たんでしょう…)それも見られて感動というか……感慨深かった。これは全員なんだけど衣装がかわいくて好きだった!ペラペラ感もなく…でもキノがターンすると広がる重さの布のコートでいいな…と。他のキャラの衣装もすてきだった!特に師匠のジャケットの後ろ身頃に切替?ダーツ?がたくさん入っていて感動しました。細部にこだわりを感じていた。

かわいいね……。宝塚の衣装でかわいい♡♡♡となるやつがたまにあるのですが、あれに近い質のかわいいだった。トーンが揃っていてみんな細かく違っていて、クラシカルでかわいい!

1作目・2作目のプロデューサーインタビューを読んでにこにこしている。

インタビュー | 舞台「キノの旅」

こういう作り手インタビューを読んでわかる~~って言う時間がわたしはすごく好き。前にも感想で書いたけど、自分がふつうに観て抱ける感想が作っている側と通じ合っているというのはうれしい。それは、自分が考えていることも感じてきたことも誰かと共有できることだと知れるから。自分がこうやって感想を書くのも似ていて、自分が考えたことを整理したいからもあるけど、自分が何か感じたことを誰かに共有したいからである。昔から好きな作品が同じとか、似た見方をして作品を読める友だちが少なかったからとりあえず書き残して誰かが後から読んだりして画面の向こうでそうなんだよね~とか言ってくれる相手になれたらいいなと勝手に思うのだ。だからみんな誰かに感想を話したくなるって1作目を終えての振り返り話?で語られているのに、そう!(笑)となっている。もしかしたらみんなこれまで誰かとキノ(小説)の感想を話したかったんじゃないか?!(笑)…とも思った。

物語について

わたしが好きだったのはまあ…全部好きだったけど……萌え的な観点でいけば"祝福のつもり"で、物語のメッセージ性(これはわたしが勝手に感じたものではある)でいけば"魔法使いの国"、師匠にめろめろでいけば"保護の国"かな。

"仮面の国"はキノと師匠がどういう関係なのか垣間見えた気がしてへえ!と思った。キノが師匠のことを話すのがよかったです。

"英雄の国"も好きでしたよ!やはり英題がよかったですね。1回できちんと理解しきれなくて原作原作…となった。こういうとき原作ものは原作に返ればより理解が深まったり感じることが増えるのが好き。WWIIでの残留兵のことを考えながら観ていた。

"保護の国"は師匠のアクションとか立ち振る舞いが麗しいのも、人間の行動や思考を縛るのもまた人間であるというのも好きだった。そう、人間のルールがもう存在する世界にしかわたしたちは生きたことがないけれど、ルールがなかった時代というのもはるか前には存在していたはず。わたしはそこからここまでに法律をはじめ、色々なルールが生まれたことを考えるのが好きだ。ちょっと"虐殺の文法"を思い出す。

"魔法使いの国"はエルメスとニーミャの交流が好きだった。モトラドなら分かるんじゃ?!と会話をしているニーミャはきっと彼女の作った飛行機のことが大好きなんだと思う。好きがゆるされないことはつらい。だからキノが意図せず飛行機を飛ばす手伝いをしたことは彼女にとってはとてつもない救いだったと思うし、最後のセリフが好きだった。偶然かもしれないけれど、自分にとっては必然だった(違ってる気がする…♪)。わたしもこれまでの経験に対して本気でそう思っているし、それは幸福なことだと知っているからこそニーミャの喜びが分かる気がした。

"祝福のつもり"は"~の国"じゃないんだ…と思っていたら毛色が違ったのでなるほどと思った。わたしはシズが好きだなあ。頑固で強くて、でも情があってやさしい。ここまででかなりおもしろい内容の作品だったのに、このお話が観られたからさらによかったな…という感想を増幅させることになった。きっとラファは最大限お金を引き出して、それを家族のために残すんだと思っていたらそれよりも大きいことをしでかしてくれて…そんな……と思った。シズはここまでするってラファのことを見抜けていたのかなと考える。なんか語るのも野暮というか…わたしは好きなお話だった。

シズのことをもっと知りたい&祝福のつもりを読みたいので原作7巻まではとりあえず読むことが確定してしまった!がんばりましょう。

全体感想

演者がみなさんこう、表明する時々で客の人生、客の物語、登場人物の人生、物語というような話をしてくれているのが印象に残った。人生は旅であり物語であるみたいなことはわたしもよく考えるけれど、こう、きちんと物語を作っているひとたちからそう言われて祈られている気分になってうれしかったり、ありがたかったりした。櫻井さんの千秋楽でのあいさつで、お客さんの笑顔が涙が見られるのが自分たちが舞台に立つ意味みたいな話があって、そこからさらに、生きて、と続いてすてきなひとだなと思った。

”美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい"というコピーがいいなと思う。別に劇的でなくても波乱万丈でなくても芸術品でなくても、それでも自分たちにも生きていくだけの価値があるかもしれない。"魔法使いの国"でキノが何の気なしにやったことでニーミャの世界を、よかったか悪かったかは分からないが、でもそれまでよりは明らかにマシにしたのと同じように、もしかしたら自分も誰かのために何かすてきなことができているかも。そうやって少し今の自分に肯定ないし、前に進む愛をくれるのが物語だし、その力が強いのはわたしにとっては舞台作品だよなと改めて感じた。